2015年4月19日日曜日


総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会
発電コスト検証ワーキンググループ への 情報提供

発電コスト検証ワーキンググループに対する情報提供はこちら から3通に分けて提供したもの。

 これらへの対応は下記に示されているが、特に、「III.高経年化によるリスク、コスト増大」については、明らかに趣旨を理解していない。
「発電コスト検証ワーキンググループへの情報提供に対する対応について」(PDF形式:278KB)

 下記によると、これ以降の意見は考慮しないとあるが、再度、情報提供する予定である。
「発電コスト検証に当たっての情報提供依頼受付期間について(案)」(PDF形式:170KB)



I.火力のシナリオ
 
1)対象部分
総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会 長期エネルギー需給見通し小委員 会 発電コスト検証ワーキンググループ 資料 

火力発電所
http://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/cost_wg/002/pdf/002_08.pdf


石炭火力発電所 熱効率:42%
LNG火力発電所 モデルプラント規模:140万kW 熱効率:52%等
など低めの値が想定されていますが、下記のようにより高いものが運用されて います。

2)根拠
(1)石炭火力発電所
IGCC(Integrated coal Gasification Combined Cycle)石炭ガス化複合発電

勿来発電所
http://www.joban-power.co.jp/nakoso_power_plant/igcc/
(株)クリーンコールパワー研究所(CCP)が、実証機による運転試験を 2007(平成19)年から2013(平成25)年3月まで行い、4月から当社が設備を引 き継ぎ商用設備(10号機)として運転をしています。

石炭火力の発電効率約42%に対して商用段階IGCCでは48~50%の発電効率が見 込まれます。
http://www.joban-power.co.jp/igccdata/igcc/dimension.html

(2) LNG火力発電所
熱効率:52% とあるが、下記によれば 約60%である。 これによって CO2排出原単位 も0.470kg-CO2/kWh→0.327kg-CO2/kWh
と低下している。

関西電力
http://www.kepco.co.jp/corporate/pr/2013/0827_1j.html
姫路第二発電所新1号機の営業運転開始について
コンバインドサイクル発電方式


(3)工期、シナリオなど
 なお、姫路第二発電所については3年で更新工事が行われた。
<姫路第二発電所新1号機 設備更新工事の工程>
平成22年 7月 1日 設備更新工事(1~6号機)本格着工
平成24年11月15日 試運転における発電開始
平成25年 8月27日 営業運転開始

さらに 下記では
 東北電力  八戸火力発電所5号機 燃料転換に関わる試運転(発電開始)について
http://www.tohoku-epco.co.jp/news/normal/1189271_1049.html

 早期に供給力を確保するために、シンプルサイクル方式(燃料:軽油、出 力:27.4万キロワット)のガスタービン発電設備を採用し、平成24年7 月に営業運転を開始いたしました。
 その後、環境負荷を低減する観点から、排熱回収ボイラー、蒸気タービンお よび発電機等を追加設置し、コンバインドサイクル方式(燃料:軽油、出 力:39.4万キロワット)として平成26年8月に営業運転を開始いたしま した。

 また、同5号機は、さらなる環境負荷低減および経済性向上を目指し、燃料 を軽油からLNGへ転換するための工事を平成25年10月から開始しまし た。これまでにJX日鉱日石エネルギー株式会社(以下、JX)の八戸LNG ターミナルよりLNGの供給を受けるための「燃料ガス配管」の敷設や、ガス タービンに送るLNGを予め加熱する「燃料ガス加熱器」の設置等を行ってま いりました。
 このたびの燃料転換により、出力は39.4万キロワットから41.6万キ ロワットに、発電効率を示す熱効率は49パーセントから約55パーセントに 上昇し、発電電力量あたりの二酸化炭素排出量の削減などができる見通しです。
------- 引用おわり
のように、運転しながらの改修も可能となっている。


3)考慮すべき点
 これら火力発電所は既存火力の更新、もしくは工場跡地などへの立地も比較 的容易である。
 例えば神戸製鋼火力発電所は神戸市内に立地している。
   http://www.kobelco.co.jp/ipp_project/

 これによって、地域への熱供給も行い、それも含めたコジェネレーションとしt ねの熱効率は80%程度に達するとされる。
  http://www.jcoal.or.jp/coaldb/shiryo/other/2_7A1.pdf

 このように電気のみならず熱なども含めた視点でエネルギー収支、コストを 勘案すべきである。 都市部に立地できるので、送配電ロスも低下する。

この他、
 上記のIGCCのページにあるように
 利用炭種の拡大、大気環境特性、 スラグの有効利用
といった面でのコスト低下も考慮すべきである。
http://www.joban-power.co.jp/igccdata/igcc/dimension.html


4)まとめ
 2030年にむけて即座に全老朽火力を更新することをシナリオに入れるべきで ある。
 熱効率も下記のように改訂 これにともない燃料費も低下するはずである。
石炭火力発電所 熱効率:42%  →48%
LNG火力発電所 熱効率:52%等  →60%

 さらに、電気のみならず熱も考慮したエネルギー全体での収支、コストを勘案 する。
 熱効率40%の火力を60%にすべて置き換えれば、熱効率30%の原発なしでも、 2010年レベルの燃料費、C02排出量も維持もしくは低減できるはずである。


II.高速増殖炉について
1)対象部分
総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会 長期エネルギー需給見通し小委員 会 発電コスト検証ワーキンググループ 資料 

第3回 平成27年3月26日(木)
原子力発電
http://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/cost_wg/003/pdf/003_05.pdf

【政策経費】

軽水炉の発電コストなのに、(発電形式が異なる)高速増殖炉の研究開発まで計 上しているのは 違和感がある。

とあるが、

原子炉設置許可申請書では

 7 原子炉に燃料として使用する核燃料物質の種類 及びその年間予定使用量
 8 使用済み燃料の処分の方法
が記載され、許可の対象となっている。
 高速増殖炉は軽水炉で発生したプルトニウムを増殖させることを期待して開 発されたものであり、核燃料サイクルの中核を担うものと期待されてきた。

例えば 文科省 H13 科学技術白書
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpab200101/hpab200101_2_212.html

 2014 エネルギー基本計画では、さらに長期核種の変換による使用済み燃料 の処理を目指した開発へと強調点が変更された。
 なお、このような変換は、ターゲット核種の抽出という使用済み燃料の高度な 処理が前提となっていること、エネルギー収支からみてもコスト的にあわない ことは自明である。無駄な研究開発費と言わざるを得ない。
http://www.meti.go.jp/press/2014/04/20140411001/20140411001.html

 これらはいずれも軽水炉を運用するために必要な研究開発費であり、計上す ることは当然である。

 なお、
長期エネルギー需給見通し小委員会第4回資料 
http://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/004/
ドイツから何を学ぶか
 については、
「再生可能エネルギーは必ず火力のバックアップが要る」
という珍妙な説が提案されている。
 この論理であれば、長期の定期点検が必要な原発、渇水期のある水力、いずれ についても、他の電源がバックアップとして必要となる。無意味な議論である。


III.高経年化によるリスク、コスト増大
1 総論
 安全対策をおこなっているので事故の発生確率を低く見積もるべきであると いう議論があったようである。
 残念ながら、過去の実態をみると点検およびその結果として対応をおこなっ てきたはずだが、故障は増加している。

2 論拠
1)戒能 一成(2009)「原子力発電所稼働率・トラブル発生率に関する日米比較 分析」 RIETI-Discussion Paper 09-J-035
http://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/09j035.pdf


[図3-2-1-2.,-3 総対処可能トラブル発生率推移比較- 型式別、- 沸騰水型
(BWR)・高年式]
は沸騰水型(BWR )・高年式の時系列での総対処可能トラブル発生率を集計して
いる。それによると、1999年には2件/年・基であったが、ほぼ線形に増加し、 2008年には8.5件/年・基に達している。この間、米国では8件/年・基から4件 /年・基に減少していることと大きな対比をなしている。
 同様に、図3-2-1-4.には低年式BWRについても集計しているが、1.2件/年・ 基から4件/年・基程度に増加している。
 
同様に加圧水型についても、
「1999-2003年と2004-2008年の発生率を比較した場合、日本では1.9件/年・
基から2.3件/年・基と微増であるが、米国では4.2件/年・基から2.6件/年・基 に減少している。」としている。

 これら原発は、定期点検を行い、問題があれば対応をしてきたはずである。 それにも関わらず、老朽化とともにトラブルは増加しており、安全対策によっ てもこれを低下させることは極めて困難といえる。
 よって、コスト評価に際しては、老朽化による事故リスクの増大=ここでの 例だとBWRでは10年で4倍、PWRでも同1.2倍に増加することを考慮すべきである。
 なお、この論文での分析対象期間は、初期不良が多発した時期を除いた比較的 安定した時期であることにも注意が必要である。今後の老朽化によって、この数 字はさらに高くなることが想定される。


2)事故として報告されない事象の考慮
 2009年5月 有限責任中間法人 日本原子力技術協会
 故障件数の不確実さを考慮した 国内一般機器故障率の推定
http://www.nucia.jp/jfiles/reliability/REPORT200905.pdf

 においては、 16年間のデータと21年間のデータを用いた場合BWR、PWRともに後 者の方がCDF が大きくなることが示されている。これは長期の運転による故障の 増加を反映 したものである(p.144)。

さらに、  表3-1 データ収集確率の確率分布の設定に用いるデータ  によると、
故障の候補となる事象数 513件に対して 故障と判定しカウントされた故障件数は 201件に過ぎないとされている。
つまり、全体の故障候補事象の39%しか 故障として報告されていないわけである。これを踏まえると、これまでのPRAのリスク評価を1/0.39=2.5倍に評価すべ きである。

 なお、この報告書や下記の報告書では故障はポアソン分布にしたがい、そのパ ラメータは時間一定であるとされている。
 これは故障の発生状況からみるとあきらかに誤りであり、初期に増大、中期に 安定、老朽化すると増加するというモデルで推定し直すべきである。

平成26年11月  
PRA 用パラメータ専門家会議
PRA 用パラメータの推定手法に関する 検討報告書
http://www.genanshin.jp/archive/praparameterstudy/data/JANSI-SPE-01.pdf

 ついでに、
NRC Handbook of Parameter Estimation for Probabilistic Risk Assessment (NUREG/CR-6823, SAND2003-3348P)
http://www.nrc.gov/reading-rm/doc-collections/nuregs/contract/cr6823/
 では故障率のパラメータλが時間依存するモデルも推定しているが、80年代の 時間と共に故障が減少した部分のみのデータを用いており、故障数が従うと考 えられるバスタブモデルに添ったものではないことに注意が必要である。


3.結論
 これらは大小のトラブルを考慮したものであり、大事故にはつながるもので はないと考えるかもしれない。しかし、TMIでも弁の固着、インジケーターの見過 ごしという細かいトラブルが事故につながった。
 以上より、安全対策をおこなったからといってトラブルが減少するとは考え られない。上述のように、故障と認識されない問題が2.5倍はあること、さらに時 間と共に10年で2倍以上にトラブルが増加することを踏まえたリスク、コスト評 価をすべきである。

 以上