2013年10月25日金曜日

福島甲状腺調査の分析2



福島甲状腺調査の分析2
 11/26 追加検証のための分析を最下部に追加。

 以前、H23の結果について分析を行った(こちら参照)。その後、H24年分の市町村別分布も公開されたので、これらを加えた25サンプルで分析を行い、欧州低線量被曝研究ワークショップ:Fukushima sessionで報告した。その際、作成した英語版のポスターを下記に添付する。

 H23はB判定が話題になっていたので、5.1mm以上の結節を分析した。しかし、結節の成長が遅いのであれば、小さいものについても分析すべきであると考えて、5mm以下についても分析した。問題意識をconjectureとして示すと下記の通り。

  • Conjecture
    • 放射線の影響によって結節ができたのだとする。しかし結節の成長はある程度遅いのだとする。であれば、結節を大小に分けたとき、小さい結節の方が、大きい結節の発見される人の数よりも被曝量との相関が高いだろう。

各図表 の意味は下記のとおり。
  • Tab.1 甲状腺調査の判定結果をまとめたもの。
  • Tab.2 推定に用いた4種類の線量の概要。
    • 上記H23で説明したWHO、放医研NIRS内部被曝、福島県外部被曝、福島県内部被曝
  • Tab.3 各市町村のこれら4つのdose一覧。
    • 赤字:WHOが推定していないのでこちらで推定。方法は上記H23を参照。
    • 青字:こちらで8mSvと設定した。
    • 福島外部、内部被曝線量についてはカテゴリ化されて公開されているのでこちらで市町村別に平均算出。
      • WHO(NIRSも)の線量推定は汚染度の高い地域については細かく推定しているが、その他については同一の値。しかし、福島外部線量は、それらの間でもばらつきがある。→WHOはこれら最新の情報を用いた再推定をすべきである。
      • 以下の分析はH23、H24についての結果のみを用いる。
        • H25の結果も一部公開されているが、結果確定割合が半分以下、高校生が少ないなど年齢分布も異なるため。
  • Fig.1 横軸にWHO線量、縦軸に5mm以下の結節があると判定された人の割合(分母は結果確定数)。
    • 赤 2011=H23 実施対象
    • 青 2012=H24 実施対象
      • 汚染度の高い地域から検査が行われた。
    • ○ 観測値:○の大きさは受診者数(結果確定者数)に比例
    • x 後述のモデルで推定した結果を用いて推定した結果
  • Tab.4 (WHO線量についての)ポアソン回帰の結果
    • 5mm以下、5.1mm以上、これらの合計、をこの表にある変数群で説明(意味はH23分析を参照)。
      • 平均年齢、4つの年齢層分布割合を入れて推定したが、従属変数によって有意になるものが異なったので、AICを比較して最良のものを選択した。
    • WHO線量は、5mm以下、5.1mm以上、これら合計について、いずれも有意となった(*がついているもの)。
      • Fig4で相関があるように見えた。ただし、受診者年齢などいろいろな要因が作用する可能性があるので、この表にあるような変数の影響を考慮して、線量と結節数の関係を分析した。その結果、「関係がないという」帰無仮説が少なくとも10%水準で棄却されたことを意味する(いい加減な表現をすると「関係がある」ということになる)。
        • z検定した結果を示したが、自由度18のt検定すべき。そうすると*が一つ小さくなるものもあるが、本質は変わらない。
      • z-値をみると5mm以下の方が5.1mm以上の推定値のそれよりも大きくなっており、(5.75 vs 2.71)、上のconjectureが確認されたといえるだろう。
        • Fig1 にあるように○とxはだいたい一致。このモデルのあてはまりはよい。
  • Tab.5 他の線量についても同様に分析。線量部分の推定結果をまとめたもの。最終的な結果なので下記に拡大。
    • WHOは上の再掲。放医研内部被曝NIRS、福島県外部線量ともに5mm以下については有意だが、5.1mm以上については有意になっていない。
      • これらについてもconjectureが確認されたといえる。
    • 福島内部被曝線量については有意ではない。
      • 他の3つは初期被曝に注目しているが、これは2011年6月末~現在まで継続中のもの。結節が初期の被曝による影響であることを暗示する?


  • その他分析
    • はずれ値と思われる浪江、飯舘などを除外して再推定。
      • 浪江をはずすとWHO線量の有意水準は低下するが変わらず有意である。
      • 飯舘をはずすと福島外部線量は有意ではなくなる。
        • ただし、国会事故調の調査結果によると飯舘の多くの方々は長い間避難せず残られた。はずれ値として除外することは不適切であろう(こちらの下部のグラフ参照)。
        • 浪江なども早く避難したものの、同調査報告によると浪江の方の半数以上が5回以上避難。中にはより線量の高い地域に非難された方もおられる。よって、これもはずれ値として除外すべきではないだろう。
    • (10/27 追記) 避難地域区分ダミー(警戒、計画的避難、緊急時避難準備)を導入すると線量は有意ではなくなる。
      •  これは線量に応じて区分を決定しているためであろう。ただし、同一町村でもこれらが混在するなど、処理に工夫が必要である。
    • 甲状腺ガンについても同様に分析したが有意とならなかった。
      • 43(合計では44とあるが市町村別データだと43)と少ないためだと考えられる。
      • ただし、甲状腺ガン人数と結節人数には正の相関がある。
  • 結論
    • 被曝量と結節の間には正の相関があること(特に小さいもの)が明らかとなった。
      • N=25、市町村レベルの集計データ。エコロジカルな分析ではあり、因果関係を示すものではない。
    • これらを踏まえると今回の結果は、将来の甲状腺ガンの発生の早期警戒なのかもしれない。発症しないという決めつけるのではなく、適切なフォローアップが必要である。
  • 追加意見
    • WHOの線量推定はそもそもpreliminaryなもの。健康影響も含めて再推定すべきである。
    • 県や国も適切、迅速な対応、情報公開すべきである。詳しくは(H23の結果参照)。


  • 追加検証のための分析
    • 放射線によって半年から数年で結節が発生、成長するとは考えられない。汚染度が高い地域では(無意識に)、あいまいなものはクロに拾い上げるという心理が働いた結果では無いか。という指摘をMELODI WS参加の日本人疫学者から指摘頂いた。
    • 第13回「県民健康管理調査」検討委員会(平成25年11月12日開催)
      • 資料2 県民健康管理調査「甲状腺検査」の実施状況について
        • 資料5市町村別二次検査実施状況の(2次検査)から
        • 結果確定数に占める、A1(異常なし) の割合を縦軸、WHO甲状腺線量10才を横軸にプロットした。
          • (H25分、H24のいわきの一部は未確定が多いので除外)。
          • 線量についてはH23のついて分析を行った(こちら参照)。
        • 線量の高い所ほど(本当はA1なのに)1次でA2以上に拾い上げたのであれば、2次検査では線量が高い所ほどA1に再分類される割合が高いはず→グラフにあるように、そのようなことはない。 



  • ポスター JPEG版は下記  pdf版が必要な方はこちらから。 (A0サイズ)