2012年1月23日月曜日

放射線影響研究所のデータについて


  • 下記に示すようにデータが公開されているので、自分で再分析している。そのためにまとめている、各データの特徴、findings。



    • ここには(広島、長崎被爆者)寿命調査(Life Span Study)以外の分析結果も含まれている。
    • 寿命調査については、1998年までのデータの分析結果が中心
  • 結果についての私見
    • 冗長になるのではじめに個人的な見解をまとめておく。以下に示されている事実を放射線影響研究所の(自称?)専門家はなぜ明示しないのか?
      • 参考)目立つところで下記のWG
      • 子供ほど影響される。
        • 例 固形ガンの過剰相対リスク(ERR)は30才で被曝した場合の2.5倍(Preston et al.,2003)。下記の図2参照。
      • ガンによる「死亡」よりも「罹患」に対して放射線は影響を強く与える。
        • 固形ガンについての死亡の分析結果ERR=0.47が多いが、罹患だとこれが0.67に上昇(Ron et al. 1994)。ガンで死亡する前に罹患する。罹患を無視すべきではない。
      • 白血病の無視
        • 白血病だと発症数は少ないもののERRの値は高い。白血病全体で罹患のERRは3.9。急性リンパ白血病のERRは10.3(Preston et al.1994)
      • ガン以外の疾病への影響もある。
        • 上記の概要にあるように、ガン以外の疾病、発育、知能などへの影響があることも判明している。
      • 喫煙による影響と比較する。
        • 喫煙を考慮した分析でも被曝の影響は有意である。喫煙は自分で好んでするもの。否応なく被曝させられた者のベネフィットなしのリスクと比較すること自体が無意味。ついでにいえば、喫煙と放射線の交互作用は9と大きい( Furukawa et al.2010)
      • 閾値モデルは支持されていない。
        • 以下に紹介するように 線量の1次項のみ、2次項のみ、1次+2次、ノンパラ、閾値モデルで推定され比較されているが、閾値モデルが支持されたものはない。
      • 100mSv以下でも有意になるという研究はある(Pierce and   Preston 2000)。13報(Preston et al., 2003),でも10mSv以下に限定して分析した場合のERRのp値は0.15。慣習でp=0.05もしくは0.10が用いられているがこれらはあくまで慣習。AICなどより正確な判定をすべきである。
        • 100mSVの領域は不明である、というべきではない。不明な場合にはリスクを重視すべきである。
      • 被曝(したことによる)ストレスによる影響を指摘する者もいるが、そのような分析は下記の文献および上記の概要にも示されていない。証拠のともなわない議論はすべきではない。
      • これ以外にも原発従業者をはじめとした低被曝データで、線量が有意になる例も見いだされている。それらに言及しないのはなぜか?


2)寿命調査データ
    • ここから必要なものを選んで住所などを入力するとダウンロードできる。
      • 公開されているのは寿命調査のみ。その一部の方を対象とした健康調査(喫煙なども質問)も行われているが、データは公開されていない。
    • コホート(年齢、性別、被爆地など)に集計されているので、それを踏まえた分析が必要。
  • 公開されているデータは下記の特徴の組み合わせ
  • 罹患率 incidenceか死亡率 mortalityか
    • 罹患して死亡されるので、罹患率の方がベースラインの割合は高くなる。
  • 死因、原因
    • ガン cancer
      • 固形ガンsolid cancer/白血病 leukemia
    • ガン以外 non-cancer
  • 線量評価方法 DS02 - 用語集 - 放射線影響研究所
    • T65DR 
    • DS86
    • DS02
  • 分析対象
    • 原爆投下時市外にいた方をどう扱うか。
    • 4Gy以上をどう扱うか。
3)分析について
  • 外部比較
    • 被爆者以外との比較 下記の研究ではされていない。
  • 内部比較
    • Epicureというソフトを用いて分析しているが、基本はポアソン回帰モデル。
      • ベースとなる死亡率*(γ*d)
    • のようなモデルを推定。dは被曝線量。上式のγが正で有意ならば、被曝線量とともに死亡率が増加するということになる(厳密には因果ではないが)。
    •  上記では線形を仮定しているが、下記のような定式化をして比較しているものもある。
      • γ1*d+γ2*d^2
      • 線量カテゴリダミーを用いる。
      • β(d-d0) としてd<d0のときには0とする閾値モデル
  • 最近の論文ではベイズ推定もされていたような気がするが見失ってしまったので下記には含まれていない。
  • 健康調査と組み合わせて、特に喫煙を考慮した分析も行われている。


4)各データのダウンロード先へのリンクと主要な結果。括弧内はファイル名。
  • 以下特に記さなければ過剰相対リスクの線量反応関数の推定結果(上式のγ:ERRと表記。研究によっては%で表示されているものもあるが割合にした(例 10%=0.1)。また、この人たちはGyを用いることが多いがそんなにはかわらないので、Svで示した。
  • 寿命調査第10報 がん死亡率データ、1950-82年 (r10cancr.dat)
  • 寿命調査第11報 死亡率データ、1950-85年 (急性影響について分類した死亡率データを含む)  (cmds86.r11) 線量はT65DR
  • 寿命調査 がん罹患率データ、1958-1987年  (tr87data.dat  ds86adjf.dat  hema87.dat) 線量はds86
    • Preston, Dale L. , Shizuyo Kusumi, Masao Tomonaga, Shizue Izumi, Elaine Ron, Atsushi Kuramoto, Nanao Kamada, Hiroo Dohy, Tatsuki Matsui, Hiroaki Nonaka, Desmond E.  Thompson, Midori Soda, and Kiyohiko Mabuchi (1994), "Cancer Incidence in Atomic Bomb Survivors. Part Ill: Leukemia, Lymphoma and Multiple Myeloma, 1950–1987," Radiation Reseach, 137, S68–S97.
      • 1950-87データ白血病などの罹患について分析。concave upward(上に反った非線形な関係)。白血病全体ではERR=3.9.急性リンパ白血病Acute Lymphocytic Leukemiaでは10.3。
  • 寿命調査第12報 死亡率データ、1950-1990年 (第1部: がん、第2部: がん以外) (r12canc.dat r12leuk.dat) 線量はDS86
    • Preston, Dale L. , Shizuyo Kusumi, Masao Tomonaga, Shizue Izumi, Elaine Ron, Atsushi Kuramoto, Nanao Kamada, Hiroo Dohy, Tatsuki Matsui, Hiroaki Nonaka, Desmond E.  Thompson, Midori Soda, and Kiyohiko Mabuchi (1994), "Cancer Incidence in Atomic Bomb Survivors. Part Ill: Leukemia, Lymphoma and Multiple Myeloma, 1950–1987," Radiation Reseach, 137, S68–S97.
      • 1950-87データを用いて白血病について推定。白血病全体では線量の1乗項だけでなく2乗項も有意。つまり上に反った形の線量反応関数。
    • Ron, Elaine, Dale L.  Preston, Kiyohiko Mabuchi, Desmond E.  Thompson, and Midori Soda (1994), "Cancer Incidence in Atomic Bomb Survivors. Part IV: Comparison of Cancer Incidence and Mortality," Radiation Reseach, 137, 98-112.
      • ガンの罹患と死亡について過剰相対リスクを推定。(罹患して死亡するので、ベースラインは罹患率の方が高いのが当然だが)、過剰相対リスクも罹患率の方が高い。
      • 例)全固形ガン 罹患率 ERR=0.65   死亡率 ERR=0.47
    • Pierce, D.A., Y. Shimizu, D.L.  Preston, M. Vaeth, and K. Mabuchi. (1996), "Studies of the mortality of atomic bomb survivors. Report 12, Part I. Cancer: 1950-1990," Radiation Research, 146, 1-27.
    • Shimizu, Y, DA Pierce, DL  Preston, and K Mabuchi (1999), "Studies of the mortality of atomic bomb survivors. Report 12. Part II. Noncancer mortality: 1950-1990," Radiation Research, 152 (4), 374-89.
  • 寿命調査第13報 がんおよびがん以外の疾患による死亡率データ 1950-97 (R13mort.dat) 線量はDS86
      • Preston, DL, Y Shimizu, DA Pierce, A Suyama, and K Mabuchi (2003), "Studies of mortality of atomic bomb survivors. Report 13. Solid cancer and noncancer disease mortality: 1950-1997," Radia Res, 160 (4), 381-407.(公開されている報告書では最新の結果なので引用されることが多い)。
        • 固形ガン全体についてのERR=0.47/Sv。線形性を疑う推定結果は得られなかった:Fig2。
        • "There is no indication that the slope of this dose–response curve over this low-dose range differs significantly from that for the full range (P . 0.5) and no evidence for a threshold.(p.396)"
        • 被曝時年齢が若いほどリスクが高い(Fig.3では30才で被曝した者の2.5倍:Fig3)
        • 部位別にも推定。最も高いBladderではERR=1.25(Fig4)。
        • 低線量での影響をみるために、分析する範囲を変更(Table 4)。下記のように、100mSv以下では有意ではなかった。
          • 0-5mSvを用いたときはERR=0.93(ただし標準誤差SE=0.85でp=0.15。5%水準で有意ではない)
          • 0-100mSvとしたときはERR=0.64(ただしSE=0.55でp=0.30:5%水準で有意ではない)。
          • 0-125mSvとしたときはERR=0.74(ただしSE=0.38でp=0.025:5%水準で有意)。
        • ガン以外についても推定。 ERR=0.14で有意であった。
    • DS02リスク推定:固形がんおよび白血病死亡率データ (DS02can.dat) 線量はDS86とDS02
        • Preston, Dale L. , Donald A. Pierce, Yukiko Shimizu, Harry M. Cullings, Shoichiro Fujita, Sachiyo Funamotoa, and Kazunori Kodama (2004), "Effect of Recent Changes in Atomic Bomb Survivor Dosimetry on Cancer Mortality Risk Estimates," RADIATION RESEARCH, 162, 377-89.
          • 1950-2000のデータを用いてDS86とDS02を用いたリスク推定結果を評価。大きな差はなかったという結論。死因については、全体、ガン、うち固形ガン/造血ガン/白血病の大分類。
        • 図1. DS02とDS86による白血病のノンパラメトリックな線量反応、1950-2000年。被爆時年齢20-39歳の人の1970年における男女平均リスク。
        • Richardson D, Sugiyama H, Nishi N, Sakata R, Shimizu Y, Grant EJ, Soda M, Hsu WL, Suyama A, Kodama K, and Kasagi F. (2009), "Ionizing radiation and leukemia mortality among Japanese Atomic Bomb Survivors, 1950-2000," Radiation Research, 172 (3), 368-82.
          • 1950-2000データで白血病による死亡を分析。
      • 寿命調査 がん罹患率データ、1958-1998年 (lssinc07.*) 線量はDS02
          • "当該データの公開準備を進める際、当該データセットの以前のバージョンでは被爆者の合 計遮蔽カーマ推定値が4 Gyよりも上か下かについての層化が正確に行われていないことが判 明した。以前に行われた解析ではこの因子を用いなかったため、症例数や人年に対するこの 過誤の影響はなく、リスク推定にもほとんど影響がないので、補正した人年表のみを公開し ている。補正したデータセットを公開することによって、ユーザーは希望すれば、高カーマ 群について自分で適切に層化(または無視)することが可能である。(同ファイルの説明)
        • Preston, D. L., E. Ron, S. Tokuoka, S. Funamoto, N. Nishi, M. Soda, K. Mabuchi, and K. Kodama (2007), "Solid Cancer Incidence in Atomic Bomb Survivors: 1958–1998," Radiation Research, 168 (1), 1-64.
          • 固形ガンについて閾値モデルを推定したら閾値は4mSvとなった。ただし線型モデルの方があてはまりは良好。0-150mSvの範囲で有意となった。
          • 放射線審議会での報告資料および下記のグラフを参照。
          • LSS集団における固形がん発生の過剰相対リスク(線量別)、1958-1998年。
          • 太い実線は、被爆時年齢30歳の人が70歳に達した場合に当てはめた、男女平均過剰相対リスク(ERR)の線形線量反応を示す。太い破線は、線量区分別リスクを平滑化したノンパラメトリックな推定値であり、細い破線はこの平滑化推定値の上下1標準誤差を示す。
          • 図2. 1 Gy被曝による固形がんの過剰発生リスクに及ぼす被爆時年齢ならびに到達年齢の影響。左図は過剰相対リスク(ERR)、右図は過剰絶対リスク(EAR)による表示。
        • Pierce, D.A. and D.L.  Preston (2000), "Radiation-related cancer risks at low doses among atomic bomb survivors," Radiation Research, 154, 178-86.
            • 2000年の論文なので上のデータとは若干異なり、1958-94のデータ。DS86を用いていると考えられる。0.5Sv以下、爆心地から3km以内の者に限定して分析。アブストラクトによると100mSv以下でも有意なリスクがあるという。
        • 寿命調査 循環器疾患死亡率データ、1950-2003  (lsscvd10.*) 線量はDS02
          • Shimizu, Yukiko, Kazunori Kodama, Nobuo Nishi, Fumiyoshi Kasagi, Akihiko Suyama, Midori Soda, Eric J Grant, Hiromi Sugiyama, Ritsu Sakata, Hiroko Moriwaki, Mikiko Hayashi, Manami Konda, and Roy E Shore (2010), "Radiation exposure and circulatory disease risk: Hiroshima and Nagasaki atomic bomb survivor data, 1950-2003," Bmj, 340.
            • 上のデータと健康調査を組み合わせて、喫煙などの影響も考慮した分析。
            • 8.6万人のコホートデータを用いたポアソン回帰。線形、2次項もいれたもの、閾値を入れたものβ(d-d0) としてd<d0のときは0 も推定。
              • Strokeについては2次項を入れたモデルのあてはまりがよい。参考までに線形モデルのERR=0.09
              • Heart diseaseについては線形モデルのあてはまりがよい。ERR=0.14。閾値モデルでもd0=0としたものが最良だった。
            • 1978年に行った5.2万人の健康調査から喫煙、飲酒、BMIなども取り入れて、個人レベルでハザード分析。上のサンプルの一部なのでERRは若干変わる。
              • StrokeのERR これらを考慮しない場合は0.081、考慮しても0.072
              • Heart diseaseのERR これらを考慮しない場合は0.122、考慮しても0.123とたいしてかわらない。ただし、これら交絡因子の影響の推定値は示されていない。
            • Discussionのあたりでは500mSV以下に限定すると有意ではなくなるので、低線量では不確実性が残るとしている。
          • 公開されているデータはこれが最新。寿命調査13報は上記のように2003年に公開された。それから8年経過するがまだ寿命調査14報は公開されていない。
          • 2012/4追記
            • 2012年に公開された。線量がDS02になり、Gyで扱われているが、結果について大きな変化はなさそう。
                   被爆者者の死亡率に関する研究、第14報、1950-2003 










        • 健康調査
          • いずれも肺ガンに喫煙の影響を取り入れたもの
            • Pierce, D.A., G.B.  Sharp, and Mabuchi.K. (2003), "Joint effects of radiation and smoking on lung cancer risk among atomic bomb survivors.," Radiation Research, 159, 511-20. 
            • Furukawa, Kyoji, Dale L. Preston, Stefan Lönn, Sachiyo Funamoto, Shuji Yonehara, Takeshi Matsuo, Hiromi Egawa, Shoji Tokuoka, Kotaro Ozasa, Fumiyoshi Kasagi, Kazunori Kodama, and Kiyohiko Mabuchi (2010), "Radiation and Smoking Effects on Lung Cancer Incidence among Atomic Bomb Survivors," Radiation Research, 174 (1), 72-82.


              • 1958-99の肺ガン罹患率に喫煙の影響を考慮した分析。喫煙と被曝量の交互作用を導入した一般化交互作用型のモデルがあてはまり最良。それによると、放射線のERR=0.59と有意(男性の方が0.9と高い)。これに対して、喫煙のERR=4.69/年50箱。これらの交互作用項は9.20

          5)感想など
          • 分析もしくは結果の見せ方の問題
            • モデルの説明変数には性別、都市なども入れてあるが、それらの推定値、検定結果などを示していない。
            • 複数モデルの適合度の比較を行い、例えば線形モデルが最良であったと記述されているが、Furukawa et al.(2010)を除くと具体的な適合度指標が示されていない。
            • 推定結果を文章の中に書くのではなく、表にまとめてもらいたい。
            • 分析のみで、例えば発症のメカニズムなどについての考察がない。
              • ICRR2011会議で、上記の児玉氏や若手の研究者に白血病では上に反った形状、固形ガンでは下にそった形状になるのはなぜか、と質問したが、両名ともメカニズムはわからないとのこと。
            • 高線量被爆者には若年層が多い。また、各セルには0が多いのでポアソン回帰が不適切になる可能性もある。といったことを考慮していない。
              • それを考慮したのが私の分析。
              • Hamaoka, Yutaka (2011), "A Search for Better Dose-Response Function," in 14th International Congress of Radiation Research. Warsaw, Poland.
                再推定なども行っているがそれは別途まとめる。